BMWロゴマークは “プロペラが由来” ではない! - [コラム] 2012年6月13日
BMWロゴマークはプロペラが由来?
BMWのロゴマークは飛行機のプロペラが回転する様子をモチーフとしており、十字はプロペラで青は空、白は雲、円形はプロペラが回転する軌跡を表しているのがその由来。
ちょっと車に詳しい人にはよく知られた雑学ですね。
確かにBMWは航空機のエンジンメーカーとして名を馳せた会社なので説得力がありますし、旅行系書籍でこのように紹介されていたのを読んだことがあります。
しかも、BMW Japanの公式サイトでもこのようにロゴの由来が説明されているのだから間違いない! となりますよね、普通は。
ところが! 事実は違うんです。
どう違うのかをお話しする前に、BMWの歴史から紐解いていきましょう。
目次
BMWはゼロから設立された会社ではなく、前身となる会社が存在していた
現在のBMWのロゴマーク(エンブレム)。
ロゴのデザインは過去に文字の書体と色、位置が何度か微妙に変わっていますが、基本的な部分は変わっていません。
全ての始まりは1916年、航空機・船舶用エンジンメーカーの RMW(Rapp Motoren Werke GmbH ラップ発動機工業有限会社 1913年創業)と航空機製造メーカーのGustav Otto Flugzeugwerke(グスタフ・オットー航空機工業 1910年創業)の2社が合併し、機体からエンジンまで自社生産する航空機メーカーとして BFW(Bayerische Flugzeug Werke 直訳するとバイエルン航空機工業)が誕生したことに始まります。
ちょっと余談ですが、オットー航空機工業の創業者は現在の4ストロークエンジンを発明したニコラス・オットーの息子さんです。車に詳しい人なら4ストロークエンジンの別称が “オットーサイクル” であることをご存知の方もいらっしゃるでしょう。
そして翌年の1917年、社名を BMW(Bayerische Motoren Werke)に変更し、事業内容を農業車、自動車、航空機、船舶、2輪車のエンジン製造業とします。
つまり、航空機の機体製造から退きエンジンに特化した経営方針に転換したというわけです。
また、同年10月にBMWのロゴマーク(エンブレム)を帝国特許事務所に商標登録しています。
ちなみに、BMWが公式に発表している設立年月日は1916年。つまり、BMWの前身となる2社が合併してBFWが誕生した年がBMWの始まりであるということです。
BMWの名称
バイエルン州に本拠を構えたことから、Bayerische=バイエルン Motoren Werke=発動機製造 の頭文字を取っています。
読み方は、「バイエリッシェ モトーレン ヴェルケ」です。
どこから “BMWのロゴはプロペラ由来” という話が出てきたのか?
BMWが公式(広報資料)にプロペラとロゴマークの関係を結びつけるような表現を使ったのは、BMWのロゴマークを商標登録してから12年後の1929年です。
この時点で、「ロゴマークを登録してから何故10年以上の長期に渡り、ロゴマークの由来を公式発表してこなかったのか?」という疑問が出てきます。普通に考えればもっと早い時期に広報が由来を語っても良かったのでは?と。
そして、BMWとして初の航空機用エンジン(BMW IIIa)が開発され初飛行を成功させたのが1917年12月のこと。ですから初飛行を成功させた2か月前にロゴを商標登録しています。初飛行の成功という記念すべき歴史の瞬間になぜ商標登録したばかりのロゴの話を広報はしなかったのか?という疑問が出てきます。
また、BMWの事業内容は“多種多様なエンジン製造”となっており、航空機用エンジン以外にも様々なエンジンを製造していた(航空機用エンジンに力を入れていたのは事実だが)のですから、飛行機だけを前面に出して“BMWのロゴマークの由来がプロペラである” という説明は少し強引に感じます。
つまり、BMWのロゴマークの由来がプロペラであるという説明は後付けである ということです。
BMWのロゴマーク(エンブレム)の本当の由来・意味は何か?
では、ロゴマークの本当の由来は何なのか?が気になるところですよね。下の画像を見て下さい。
左が Rapp Motoren Werke のロゴマーク、右がバイエルン州の州旗です。
この2つを合わせてみると…
もうお分かりでしょうか?
そうです、BMWの母体となった Rapp Motoren Werke のロゴマークの中心にバイエルン州の州旗をはめ込み、Rapp の社名とBMWの社名を入れ替えただけというわけです。本当の由来は実にシンプル。
確かにこれだとPRとしては面白くもなんともないわけで、ロマンがあるプロペラ由来に話をすり替えたくなる気持ちも分からなくはないです…。
何故、ロゴマークの由来がねじ曲げられたのか?
一言で言ってしまえば、“BMW広報がPRの一環として話しを作った” です。
つまりこうです。飛行機のエンジンを売り込むために当時の広報が航空機用エンジン一筋でやってきた印象を持ってもらうために、後付けでプロペラとロゴマークの関係を結びつけたというわけです。
BMW広報がロゴマークの由来を後付けしてまでPRしたかったのは当時の経営事情があります。第一次世界大戦で1918年にドイツ敗戦。同年にBMW初の航空機用エンジン BMW IIIa の大量生産が開始されるも、1922年に敗戦国ドイツに対して航空機の製造禁止が命じられる。これによって1923年に2輪車の製造を開始。更に1926年に航空機部門をBMWから切り離してBFWを設立(BFWは1938年にメッサーシュミットと社名を改名)。1928年には初の4輪車 “BMW Dixi” を製造。しかし1929年にはニューヨークの株価大暴落を端緒として始まった世界恐慌により経済状況は深刻となるなど、当時の混乱ぶりが見て取れます。
BMW Japanの公式公表はどうなっているか?
その前に、ドイツ本国ではどのような認識なのかというと、ミュンヘンにあるBMWミュージアムでは「このロゴマークの由来はプロペラとは全く関係ない」と説明されていることが 2010年1月のニューヨークタイムズ電子版で紹介されています。本国のミュージアムが事実をしっかり伝えている姿勢は大変良いことですね。BMW North America もプロペラ由来が間違いであることを認めていることも報じられています。
では日本ではどのような認識なのでしょう?
BMWは航空機エンジン・メーカーとして設立。飛行機のプロペラをモチーフにしたロゴマークからも、その成り立ちを理解することができます。
BMW Japan ORIGINより抜粋
なんということでしょう…
そうなんです、日本の公式サイトではこのように間違った紹介をしていました(2015年5月当時)。しかも、プロペラ由来だけでなく、“航空機エンジン・メーカーとして設立” というのも微妙に違います。帝国特許事務所にロゴマークを商標登録した時の事業内容を見る限り、総合エンジン・メーカーとしてスタートしているはずです。
これは公式サイトらしからぬ、随分とお粗末な紹介でした。歴史、実績、実力もあるわけですから正直に伝えて欲しいなと。BMWファンの一人として正直悲しい…。
日本ではこの “プロペラ説” を信じている人が多いのですが、公式サイトがこれでは無理もなかったわけです。
尚、今現在はBMW公式サイトの大幅なリニューアルによって、当該記述はもちろん、BMWの歴史に関する全ての記載が削除されてしまっているため、BMW Japanがどのような見解を示しているのかは定かではありません。
しかし、2020年3月、BMWは23年振りにロゴのデザインを変更すると発表。これに合わせ公式英語サイトではロゴの歴史を紹介するコンテンツが新設され、この中でしっかりと真実が記述されています。興味がある方は是非見てみて下さい。
The BMW logo - meaning and history