シェンゲン協定はグレーゾーン - [コラム]
「シェンゲン協定」とは何?
シェンゲン協定は加盟国における通行自由化と手続き簡素化、つまり、国境検査なしで自由に国境を行き来することができる協定です。
日本人の場合は、最初に到着するシェンゲン協定加盟国で入国審査があり、最後に出国するシェンゲン協定加盟国で出国審査が行われます。つまり、シェンゲン協定加盟国内では最初と最後の国以外で行き来する他国間移動では一切出入国審査が無いということです。
尚、EUと混同されがちですが、EU加盟国=シェンゲン加盟国ではなく、EU加盟国の中にシェンゲンに加盟していない国があります。
目次
- シェンゲン協定加盟国 一覧
- シェンゲン協定の規定
- シェンゲン協定はグレーゾーン
- シェンゲン加盟国内での出入国の一例
- EU加盟国 一覧
- シェンゲン協定加盟国での免税手続き
- オーストリアでの180日間滞在
シェンゲン協定加盟国 一覧
オーストリア、ベルギー、デンマーク、チェコ、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、リヒテンシュタイン
全26ヶ国 2022年7月現在
尚、キプロス、クロアチア、ブルガリア、ルーマニアがシェンゲン協定に加盟予定
シェンゲン協定加盟国内での他国間移動でもパスポートは必要!
勘違いしてはいけないのは「シェンゲン協定加盟国内での多国間移動でもパスポートは必要」だということです。確かにシェンゲン協定加盟国内であれば一切の出入国審査が無いのは事実ですが、それ以前に「私は日本人である」ことを証明する唯一の公的書面であり、外国人には「パスポート携帯義務」があるからです。
また、シェンゲン協定加盟国であるフランスからドイツに鉄道で入国した際に車内でパスポートチェックがあったという例が実際にあります。これは出入国に関する審査ではなく、警備や捜査などの理由で身分確認のためパスポートの提示を求められたわけですが、パスポート不所持の場合は携帯義務違反で拘束される可能性があるということです。「パスポートを盗まれたりしないか心配だからコピーを持ち歩く」という方もいるようですが、これは明らかに携帯義務違反。必ずパスポートは携帯しましょう。
その他、スイスへの入国の場合は税関検査のためパスポート提示を求められることがあります。スイスはシェンゲン協定加盟国なのでパスポート審査はありませんが、EU加盟国ではないので税関検査があるためです。EU加盟国間においては関税撤廃の取り組みのため税関検査も無いのですが、EU非加盟国への入国では原則、税関検査があります。
シェンゲン協定の規定
ビザ無しでの出入国に関しては下記のとおりです(2013年10月18日より実施)。
- 過去180日間のうち90日を越す滞在は出来ない
- 過去180日以内の滞在日数は全て短期滞在の期間として算入される
- 滞在日数のカウントには、トランジットでの通過、帰国をはさむ複数回の訪問も含む
ちょっとわかりづらいかもしれませんね。例えばこんな感じです。
尚、わかりやすく説明をするために「1カ月間=30日」とします。
- Aの場合、6月に20日間滞在可能
- Bの場合8月は25日間滞在可能
シェンゲン協定加盟国を出たり入ったり繰り返すと滞在可能日数の計算は非常に面倒ですが、「180日間のうち滞在90日を越してはいけない」というルールはいたってシンプルで明確です。
例えば、シェンゲン協定加盟国への最初の入国から180日が経過すれば滞在数のカウントが0に戻るのではなく、例えばシェンゲン協定加盟国に90日間滞在して出国した場合、その日から180日間一度もシェンゲン協定加盟国への渡航をしなかった場合に滞在数のカウントが0に戻る仕組みです。
しかし、ヨーロッパを長期間旅行をしている方、特にバックパッカーや世界一周旅行者などが最も気になる出入国関連の話題と言えばシェンゲン協定の壁ですよね。その他、仕事などで短期間に何度かヨーロッパに滞在したけど、残りの滞在可能日数は何日あるんだろう?と計算される方もいらっしゃるでしょう。そこで、滞在可能日数を知るための便利なツールがあります。
シェンゲン加盟国内の滞在日数計算ツール(EU公式ページ)
SCHENGEN VISA CALCULATOR(公式ではないがわかりやすい)
シェンゲン協定はかなりのグレーゾーン
かなり前置きが長くなりましたが、ここからが当コラムの本題です。
実はシェンゲン協定、グレーゾーンが存在する協定なんです。というのも、とある在ヨーロッパ日本大使館の話しでは「シェンゲン協定に関して、多少のオーバーステイで過去に問題になったことはない」ということなんです。
つまり「多少のオーバーステイなら大丈夫! と公言はできないけど、問題になったことは無いよ。立場上これ以上のことは言えないから察してね」と聞こえなくもない・・・。う~ん、これは結構アレなお話しですね・・・。
その理由というのは、シェンゲン協定とは別に、日本とヨーロッパ各国には二国間協定を結んでいることが関係しています。例えば、日本と大多数のヨーロッパ各国とは「90日以内の滞在ではビザ不要」という二国間協定を結んでいます。
そのため、とある大使館としての見解は「シェンゲン協定よりも二国間協定が優先」という認識があると。なるほど、その話しはごもっとも。
実際、オーストリアは日本との2国間協定で180日間滞在できることになっており、シェンゲン協定の枠を超えて最大180日間ビザなしで滞在することができます。例えば、シェンゲン協定国に90日滞在した後にオーストリアで180日間を超えない範囲で滞在できます。その他、ポーランドも日本との協定によってシェンゲン協定は関係なくポーランドに入国した日から90日間滞在可能です(ポーランドとの2国間協議を適用するためには他のシェンゲン協定国を経由せずにポーランドに直接入国することが条件)。
ということは、シェンゲン協定としてはシェンゲン協定加盟国での滞在日数が90日を超えてはいけないが、二国間協定では当該国で90日間の滞在が許可されているという矛盾が生じています。そのため、シェンゲン協定での90日を超えるオーバーステイに関してはグレーゾーンであり、実際にこの矛盾は過去にも指摘されて問題視されています。つまり解釈によって合法と違法に分かれるためグレーゾーンなのです。
そんな矢先、日本外務省から下記のようなとても興味深い公式見解が2013年7月17日に示されました。
我が国は、各シェンゲン領域国との間で、二国間のビザ免除措置に関する枠組みを有していますが、現在、シェンゲン領域における域外国国民の短期滞在に関する措置の状況は流動的であることから、シェンゲン領域を長期間訪問する予定のある方は、十分な注意が必要です。
シェンゲン領域を180日以内に90日を超えて訪問する方は、事前に、渡航予定国の措置に関する情報を各国の政府観光局や我が国に存在する各国の大使館に問い合わせて確認することをお勧めします。
なるほど、明言を上手く避けていますね。もっとも、他国の出入国管理について外務省が明言できるはずもないのですが、ますますグレーゾーンであることが伺える記述です。
筆者には「我が国としてはシェンゲン協定よりも我が国との二国間協定を優先して欲しいが、我が国がシェンゲン協定にケチを付けたり他国の出入国管理に干渉することはできないから、全て自己責任でお願いね」と言ってるように聞こえます。
一応、念を押しておきますが、筆者にはそう聞こえただけです…。
ともかく、筆者から言えることは一つ。
二国間協定を盾に主張すれば、シェンゲン協定加盟国であっても90日を少し超える滞在(数日のオーバーステイ)で問題になる事は無いかもしれない。でも、何かしらの罰則を受けるかもしれない(90日間の入国禁止や罰金などの事例あり)。
確実なのは、「入国日から過去180日間のうち90日を越さないよう滞在日数を調整」すれば何も問題はないということです。
EU加盟国 一覧(27カ国)
アイルランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、キプロス、ギリシャ、クロアチア、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ルクセンブルク
2022年7月現在
参考までに、この中でシェンゲン協定に加盟していないのはアイルランド、キプロス、クロアチア、ブルガリア、ルーマニアの5か国です。
EUとは?
EU国民に限定した取り決めで、EU圏内であればどこに住んでも、どこで働いてもOKというEU圏内での移動の自由が認められており、物流では原則として関税がかかりません。つまり、日本人にはまず関係が無いので旅行においては気にする必要はありません。